歩きと走りの筋肉

 身体の移動は、生活の基本です。

 野生動物も 移動できなければ、食べる事ができずに 死を待つだけです。

 我々人間も、よく「歩けなくなったらオシマイだね!」などと言っていますね。


 武術では、ムダな力を入れずに すばやく動けなければ、即、命にかかわりますから

 身体の移動の仕方は 昔から研究されてきました。


 これを生活に取り入れることで、快適な移動が出来ます。

 何故なら、筋肉を力ませての移動は、疲れるだけだからです。



 まず、少し フトモモ前部にある 大腿四頭筋 の勉強をしていきましょう。

  大腿四頭筋は、名前のとおり、次の4つの筋肉からなっています。


 ・ 大腿直筋 … ヒザ上の真中にある大きい筋肉

 ・ 内側広筋 … ヒザ上にある内側に膨らんだ筋肉

 ・ 外側広筋 … ヒザ上にある外側を占領した筋肉

 ・ 中間広筋 … 大腿直筋よりも深い部分にある筋肉


 通常、大腿四頭筋は 脚を伸ばすための筋肉です。

 厳密に言うと、ヒザを伸ばすための筋肉です。

 泉水流で、よく言われる“伸筋”ってやつです。



 ですから、立ち上がったり、地面を蹴る、サッカーや格闘技のキックなどに使われます。

 逆に、脚を曲げるときに 使われるのは、脚の後にあるハムストリング群なのです。

 しかし、ヒザを曲げて持ち上げようとすると、大腿四頭筋まで働かせてしまう人がいます。

 しかも、そのような人は、スポーツマンの中にも多く見られるのです。

 
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 ヒザを曲げて持ち上げようとすると、大腿四頭筋まで働かせてしまう人がいます。

 あ、多少は働きますよ!  筋肉は連動していますからね。。。

 でも、本当に この状態だけでフトモモがコチコチになっている人が多いです。


 私は、中学時代は 陸上部でした。

 練習で、毎日 毎日、長時間 “腿上げ” をやらされました!

 その場で、ヒザを曲げて高く持ち上げながらの足踏みをするんです。。。


 今でこそ、運動科学が発達して、長時間の “腿上げ” は、害にしかならない事が

 分かっていますが、当時は 当たり前に正しいと思われていた行為だったのです。


 みんなムキになってガンバりますから、力んだ状態で “腿上げ” するのが

 身についてしまいました。


 例えば、力んだ状態でキックしても、力が内側にこもるので…、


 1.スピードが遅いです

 2.パワーがでません

 3.破壊力もありません


 …と、3拍子そろってしまいます。


 投球(パンチもそうですが)などで、力んで(入力して)いる状態でボールを

 投げても速い球を投げられませんし、遠くにも飛びませんね。


 当たり前ですが、力を入れる(入力)行為は、自己満足させる行為です。

 力んで(入力して)も、力を出すこと(出力)が出来ません。





 大腿四頭筋に限らず 大切なことは、


 1.目的に応じて、必要な筋肉を使う

 2.不必要な筋肉は、極力使わない


 ただ、これだけなんです。

 でも、殆どの人が、生活習慣で 使い方にクセがついています。



 人間は機械ではありませんから、インストールされた動きを

 簡単にアンインストールするわけにはいきません!


 そこで、時間をかけて正しい動きを、上書き保存してやる必要があります。

 それこそ、太極拳のようなユックリ運動なのです。


 すばやい動きは、間違った動きをしている自分自身を、誤魔化します。

 だからこそ、ゆっくり動く練習が必要なのです。


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 「泉水さんも、他の古流(武術)の先生と同じで、筋トレ否定派なんですね!」

 なんて よく言われますが、そんな事はありませんよ!


 ただ、筋肉強化は最終手段だと主張しているのです。

 まず、筋肉の使い方をマスターしてから、弱い部分を強化するべきだと思います。


 一般に、スポーツジムで筋トレというと、バーベルなどのフリーウエイトか、

 マシーンを使った“筋肉繊維肥大運動”がメインになります。

 良いか悪いかでは無く、それを目的としている所なのです。



 身体操作に優れたアスリートたちが、自分の弱い部位の筋肉を強化する場所なのです。

 脱臼癖のある選手などは、その周辺の筋肉を強化する必要があります。


 そのまま身体操作もできない一般人向けに、同じサービスを提供しているので

 筋肉繊維だけが肥大して、動けなくなっている人が増えているのです。


 ジムのインストラクター達でさえ、「筋肉さえ肥大させれば何とかなる」と、

 信じて疑わない人が多いのです。

 何故なら、若いうちならば、それでも そこそこ成績が出せるからです。


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 確かに、歩く、走る、飛ぶ、といった運動に、大腿四頭筋は不可欠です。

 何故なら、すべて身体を支えて行う運動だからです。

 特に、飛ぶ(ジャンプ)は、最も大腿四頭筋を活用する運動ですね。


 もちろん運動は全て、全身を使って行われますし、脚部も大腿四頭筋だけで無く

 腿裏(ハムストリング群)や、ふくらはぎ(腓腹筋)も順序良く使います。



 中国武術をはじめ外国の格闘技は、飛ぶ(ジャンプする)動きの多いものがありますが、

 日本は少ないですね。

 (能や歌舞伎で、大腰筋などを使って上方向へ飛ぶ動きもありますが、

  歩く、走るとは異なる動きなので、ここでは省きます)


 地面に対し、上下の運動よりも、水平の運動を好むからです。

 正しいかどうかではなく、日本人の体質に合わせているだけです。



 日本の武術は、上方向に飛ぶのではなく、前方向に移動しようとするのです。

 ですから、飛ぶ(ジャンプ)という意識が薄いのです。


 ですから、ここでは歩く(ウォーク)と、走る(ラン)を見ていきましょう。


 先程、“日本の武術は、前方向に移動する”と、言いました。

 つまり、“歩く(ウォーク)のに、上方向に飛ぶ必要はない”という事です。



 前進しようとするのに、上方向への力が働くと、推進力がロスするからです。

 ジャンプする行為が“ふんばる行為”となり、推進力にブレーキをかけてしまいます。

 
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 じつは、身体を支える筋力って、そんなに必要ではありません!

 重力に対抗して、最低限の筋力で立てば良いのです。


 伸筋である大腿四頭筋でも、アウターマッスルである


 ・ 大腿直筋 … ヒザ上の真中にある大きい筋肉

 ・ 外側広筋 … ヒザ上にある外側を占領した筋肉


 などの力は、そんなに必要としません。



 ・ 内側広筋 … ヒザ上にある内側に膨らんだ筋肉

 ・ 中間広筋 … 大腿直筋よりも深い部分にある筋肉


 などの、骨に近い インナーマッスルを使って立つのです。



 そして、身体を移動する時に、大腿直筋や外側広筋も使うのです。

 ただし、地面を蹴る(キックする)のではありません。



 身体を少し前傾させて 倒れ込むのを利用して、地面を押す(ブッシュする)のです。

 ただし、これだけでは 前傾しっぱなしで 地面を押さなければなりません!!

 漫画じゃ あるまいし、現実には無理な話です。



 それに、ふくらはぎ(腓腹筋)まで使って地面を蹴るものなら、

 余計に身体は上方向に伸び上がってしまいます。



 そこで腿裏(ももうら)の筋肉ハムストリング群を使うのです。

 ハムストリング群は、大腿二頭筋・薄筋・半腱様筋・半膜様筋からなります。


 これらは、ヒザを曲げる働きをする屈筋です。

 この、『脚を後へ運ぶ力を利用して、身体を前方へ運ぶ』のです。

 この時は、ふくらはぎ(腓腹筋)を使わないので、カカトは地面につけたままです。


 身体が前方へ移動したら、大腿四頭筋で地面を押すのです。

 この時、初めて ふくらはぎ(腓腹筋)を使って、身体を押すフォローをします。




 武術の達人やトップアスリート達の走り出しを まとめると…


 1.背中をまっすぐにしながら状態を前方へ傾ける(自然落下運動)

 2.ヒザの力を抜き、腰をつき出して加速する(自由落下運動)

 3.ハムストリング群の力で、身体を前方へ運ぶ

 4.大腿四頭筋で地面を押す


 …と、なります。



 スピードが乗って来ると、走りは必然的に脚部が先行するという生理的な問題と、

 空気抵抗の浮力によって、上体が持ち上がっていき胸部がせり上がり、

 最終的には腰部を突き出す形で走る格好となります。



 以上が、走り(ラン)と 歩き(ウォーク)の 運動理論です。


 祖父に、よく 『服の中を見よ! 肉の中を見よ!』と言われました。

 武術の達人は、“表面は同じ動きに見えても深部や細部が異なっている”のです。