ナンバ走り(歩き)

     アテネオリンピック 陸上短距離の、S・S 選手 残念でした!

  彼の言葉『ナンバを意識した』は『ナンバ走り』として日本中に知れる事

  となりました。


  じつは 『ナンバ』なんて名称、私も最近まで知りませんでした。

  もともと、武術用語じゃないしね! 歌舞伎には、あるようですが…

  結局、江戸時代以前の人々の、体の使い方を『ナンバ』と言うようです。


  武術家のY・Kさん までが『ナンバ』なんて言うものだから、武術界も

  こぞって『ナンバ』を合唱しています。

  「ブームにあやかろう!」ってんで武術雑誌から、健康雑誌、一般書籍

  まで『ナンバ』と表紙に印刷されているものを、多く見かけます。

  内容たるや、もう皆さん 好き勝手 書いていますね。

  “古い名称を使った、新しい走法”で、しかも完成されていない!

  となれば、言ったもん勝ち!(爆)


  ところで、肝心のS・S 選手の言う『ナンバ』とは何でしょう?

  “陸上マガジン” という雑誌に、『ナンバ走り』の腕振り に関する記事を

  見つけました。

  「相撲のテッポウ(突っ張りの練習)のように、腰と一緒に前へ送る動き」

  と あります。


  これは、武術に限らず、スポーツやダンスでも常識ですよね。


  ここで まず、分かった事は…


  1.日本人は 農耕民族であり、農作業において鍬を振るうときは、身体的

    なクセとして、“利き手 利き足”を前に出す。

    武士も、刀を振るときは、“利き手 利き足”を前に出す。

  
  2.江戸時代の、武士や飛脚以外の一般庶民は走れなかった。という説も

    ある。

    戦で農民が駆り出されても、時代劇や映画のように走れなかった。

    槍もって歩いてた。という説もある。


    ※ 資料は、明治時代に書かれたものですが、内容に関しては、

      “西洋人的な走り方が出来なかった”と、解釈するべきでは?


  3.武士や忍者が走るときは、刀を押さえていなければならず、飛脚も

    また荷物を付けた棒を押さえて走らなければならない。

    やはり 体幹部(胴体)を捻ると、走りづらい。


  4.着物や浴衣を 着崩さずに歩くには、体幹部(胴体)を捻ってはいけない。

    また、舞踊や歌舞伎の動きから考察しても、捻りは存在するが体幹部を

    捻っている訳ではない。

    武術も同じである。道着を着慣れない人は、前がはだけてしまい、すぐ

    着崩れる。


   ※ 正しくは、『腰から動いて 上体の向きを変えている』のである。

        
   この部分を見る限り、武術の基本中の基本なのですが…

 

      ◇◇◇      ◇◇◇       ◇◇◇      

 

      注目されているのが、“手足の同時運動”と“手足の交互運動”です。


   うちの子の アルバムの写真を見ると、赤ちゃんの頃〜3.4歳頃まで

   右手右足、左手左足 を 同時に前に出す“手足の同時運動”が多く

   写っています。


   それが 幼稚園や保育園の 運動会の練習で、行進を教わってから
   
   右手左足、左手右足 を交互に前に出す “手足の交互運動” である

   現代式 (西洋式) の歩き方に変わってしまっているのです。

   という事は、“手足の同時運動” が 『ナンバ』 なのでしょうか?


   今ここに、ヨーロッパの絵画集と、日本の浮世絵集があります。

   右手右足、左手左足を同時に前に出す “手足の同時運動” も、

      右手左足、左手右足を交互に前に出す “手足の交互運動” も、

   なんと 絵画を見るかぎり 西洋・東洋 問わず両者に見られるのです。

   
   
   確かに、日本の浮世絵の方が 『ナンバ』の動きが多いのも事実です。

   ただ 『ナンバ』 の動きは、けっして 日本人だけの動きでは無いという事

   になります。

   西洋の 射撃やフェンシングだって、“利き手 利き足”が 前なんです

   から…。


   体幹部(胴体)を捻らなければ、“手足の交互運動” で 歩いても着物も

   浴衣も 着崩れません。

   大切な事は、こわれたロボットみたいに “手足の同時運動” を練習する

   事では無く、“正中面”(真直ぐ正面を向く姿勢)を作る事なのです。


   
      ◇◇◇      ◇◇◇       ◇◇◇      

 

   今回のオリンピックでも、『ナンバ走り』 が見られました。

   サッカー、バスケットボール、陸上と いろいろな スポーツ・シーンで!

   一番多く見られたのがマラソンでした。

   やはり、飛脚なども長距離を走りますからね!

   はっきり言って 『ナンバ走り』は、長距離走 向きです。

    マラソンの選手の中にも、知ってか知らずか「ナンバ走り」で走っている

   選手って多いです。


   走っているときの、「体勢を整える時」や、「急な加減速の時」に、

   一流のアスリート達は、『ナンバ』 を使いこなしています。

   つまり、「バランス と スピード の コントロール」に 使っています。

   
   “手足の同時運動” か “手足の交互運動” かは、その時の状況で変わる

   もの。   結果に過ぎないわけです。

 

   『ナンバ』を説明するとしたら…

   1.正中面(真直ぐ正面を向く姿勢)をとる。

   2.体幹部(胴体)を捻らない。

   3.腰から動く。


   『“正中面”をつくり、腰から動き、上半身が下半身を助ける事は

   有っても、邪魔をすることは無く、各々が独立した存在であるか

   の様に動ける状態。』

   と いう事になります。

     
      体得すれば、武術やスポーツで “相手から動きが読めない”という利点

  はあります。

  だからといって、「ナンバの生活をしましょう」 などとは言いません。

  武術やスポーツの中で、必要なとき、必要なだけ使えれば良い。

  その為に、感覚を掴んでおくのも 良いのではないか、という提言です。


  よく、雑誌などで「ナンバで健康になる!」という特集がありますが、意味

  わかりませ〜ん! (爆)

  実際に、健康やシェイプアップに効果があるのは、体幹部(胴体)を

  捻る運動なのですから…。

 

無料メールマガジン『アパパのゆかいな健康講座』(2004年)より掲載